小島 史也 氏 東京医科歯科大学医学部医学科4年
National Health and Lung Institute, Faculty of Medicine,
Leukocyte and Stem Cell Biology,
Imperial College London
滞在期間:June, 2016 ~ November, 2016
自己紹介
サウスケンジントン会の皆様、初めまして。私は東京医科歯科大学の学部生で、大学の交換留学プログラムにより現在インペリアルカレッジに留学しております。東京医科歯科大学では医学部4年生がおよそ半年間研究に触れる機会があり、インペリアルを含め海外協定校でも研究を行うことが認められています。私はこちらで5か月という短い間ながら、テロや戦場等における爆風が人体に及ぼす影響、特に異所性骨化すなわち筋や腱など本来骨ではない組織が骨化していくという現象の分子生物学的メカニズムを探求しています。インペリアルにはCenter
for Blast Injury Studiesといって医学部と工学部が協力してこのような爆発損傷に関する研究ができるような仕組みが設立されており、日本では中々体験出来ないダイナミックな分野ということで、数ある選択肢の中からこのテーマに決めました。
英国における研究
私は渡英前、わずかながら東京医科歯科大学にて実験手技の練習をさせて頂きました。そのため日本とイギリスの研究室のスタイルの違いにまず驚かされました。日本では夜22時を過ぎても研究室に残って作業をしている研究員が一定数いる一方、こちらでは17時にはかなりの数のスタッフが帰宅していきます。しかしながらここインペリアルカレッジは世界大学ランキングでも常にトップ10入りし、日本の大学よりも上に位置しているのが現状です。私はこの理由が不思議で仕方がなかったのですが、こちらに来て徐々に実態がわかってきたような気がしています。というのも、こちらのスタッフは空き時間にかなりの数の論文を読んでいます。そして定期的に抄読会を開き読んだ論文について意見の交換をしています。こうして確実に結果が出そうなテーマに的を絞り、必要最低限の実験で成果を出すという工夫をしているように見受けられます。実際、私も到着して早々150本ほどの論文を渡され、出来る限り読むようにと指示されました。他方日本においては、とにかく試してみて面白い結果が出たらそこを追及するというスタンスであるように思います。そのためどうしても実験にかかる時間は多くなるのではないでしょうか。勿論こうした日本流のやり方から思いもしないような大きな結果をもたらすことがあるのも事実なので、一概にどちらが良いという話ではありませんが、ワークライフバランスを維持する一つの方法としてイギリスのやり方も非常に参考になっています。さらに研究者間の交流という点について、私のいるSir
Alexander Fleming Buildingではオープンラボという形式を取っています。これによって異なる分野の研究者との意見交換がしやすくなっていて、先日も私のスーパーバイザーに他の研究室のスタッフが相談に来ている光景を見かけました。こうした取り組みもクリエイティブな研究をする上では非常に効果的だと実感しています。
日本人研究者の集い
とはいってもやはりインペリアルには日本人がいます。身分は教員、研究員、学生と様々です。数ヶ月に1回、本間貴之さん(元・Department
of Bioengineering、現・京都大学iCeMS)の声かけでインペリアル(および他大学など)関係者20~30人がパブに集まって交流しています。研究の情報交換、英国生活の悩み相談、故郷の話題、たまには恋が芽生えるかもしれない楽しい会です。
h bar
話は変わりますが,大学ではそこらじゅうでrenovationの工事が行われています.例えばメインエントランス横のMechanical Engineeringの建物は,大工事の末新しくなり,名前もCity & Guild Engineering Buildingとなりました(ネーミングに関しては不評のようですが).また,以前Holland Clubのあったところが教職員と博士課程学生用の食堂,h barとして生まれ変わりました.Senior Common Room (SCR) よりも落ち着いた雰囲気で,夜にはお酒も提供されるバーになります.それにしてもネーミングのセンスがいかにも理系大学っぽい感じで,個人的には好きです.
BBC Proms @Royal Albert Hall
皆さんもあの長いqueueに並ばれたことがあるのではないでしょうか.格安で本格的なコンサートを観ることができる素晴らしい催しです.ロンドンではこの他にもオペラや映画の野外上演にも遭遇したことがあるのですが,こちらでは,文化的なソフトを全ての人に解放しようというスタンスが垣間見えます.博物館が無料なのもその一例ではないでしょうか.なんにせよ,ポスドクの身にはありがたいイベントです(笑)
Barclays Cycle Hire
ロンドンにも自転車共有システムが導入されました.市内各所にある自転車置き場(dock)から自転車を借り,目的地まで移動した後,最寄りのdockで返却することができます.£2で24時間の間好きな時に利用できます.現在市内550か所に8000台以上の自転車があり,1日平均15000回もの利用があるそうです.かくいう私も愛用者の1人です.日本では自転車ユーザーへの風当たりは良くないようですが,健康にもお財布にも優しい交通手段として,日本にも広まってほしいなと思っています.
著者略歴
2013年3月 京都大学工学研究科 航空宇宙工学専攻 博士課程修了
2013年4月より現在 日本学術振興会 海外特別研究員
Imperial College London, Department of Earth Science and Engineering Electrochemical Science and Engineering group
主に固体酸化物形燃料電池の電極微構造最適化に関する研究に従事
上田 真央 氏
Tribology Group,
Mechanical Engineering Department,
Imperial College London
滞在期間:April, 2018 – March, 2021
自己紹介
私は上記グループの博士課程学生として在籍しています。これまでの経歴を紹介しますと、2012年に京都大学工学研究科修士課程を修了後、シェルルブリカンツジャパン株式会社に入社しエンジンオイルの研究開発に携わっておりました。会社の留学制度を活用して2018年4月より3年間、博士課程学生として留学しております。
研究室の紹介
私が在籍するトライボロジー研究室は、2019年に設立65周年を迎えました。7名の先生、15人程の研究員、40人程の博士課程学生が在籍する規模の大きい研究室です。在籍する研究員、学生は非常に国際色豊かです。多くの学生は企業との共同研究に従事しており、企業からスポンサーシップを得て研究しています。当研究室では、機械・バイオ関連の摩擦・摩耗に関わる研究、また多岐に渡るモデリング・シミュレーションが行われています。設備は非常に充実しており、大方の実験は大学内で行えます。
また、研究室は非常に風通しの良い雰囲気があり気に入っております。12時頃に皆でランチを食べ、金曜日の夕方には大学のパブに行きます。その他にも多くのイベントが企画されます。研究テーマによっては全く話す機会がない人もいるので、このような機会が大事なコミュニケーションの場になっています。
大学での日常
博士号を取得するためには、3年間(人によって期間は様々で最長4年)のうちに、2回の中間審査が行われ、審査官に対して進捗をプレゼンする必要があります。その後、博士論文を提出し、口頭試問(Viva)に合格すれば博士号を取得できます。
指導教官によりますが、私は週に一度2人の指導教官とミーティングを行っております。必要に応じて他の教官や研究員に相談することもあります。ふとしたディスカッションが論文のネタになり、問題解決の糸口になるので、意識的にアンテナを広げて多くの人を巻き込みながら研究を進めることを心がけています。知識、経験、専門性という観点で非常に多様化されている研究室なので、ディスカッションの度に、結果の解釈方法、新しいアイデアの出し方など学びが多いです。一方で留学当初は、イギリス人の指導教官達とのディスカッションについていけず、ミーティングの録音、議事録作成など少々手間がかかっていました。
ある程度結果がでると、年に2,3回は学会に参加し発表します。研究以外には、機械工学の授業、英語の授業、自己啓発の授業、修士学生の研究プロジェクトのサポートなど、多くのイベントがあるため日々忙しくしています。
大学での食事
サウスケンジントンキャンパスには食堂が4ヶ所、その他に軽食を買えるショップが5ヶ所程度あります。また、毎週火曜日のランチタイムには構内でファーマーズマーケットが開催され、30程の屋台が並びます。中でも窯で焼くナポリピザがお気に入りです。毎週金曜日には食堂でフィッシュアンドチップスが提供されます。この日ばかりは大行列で15分待ちの日もあります。£4.5と良心的な価格で、これまた美味しいので気に入っております。日替わりで色々なメニューがあり、良心的な価格なため大学での食事に大きな不満はありません。一方で、夜遅くまで大学に残る時もあるので、夕食を提供する食堂が無いことに不便を感じています。日本と違いあまり需要が無いのでしょう。
研究を進める上での違い
イギリスで研究を進める上で多くの違いを感じます。専門性の違い、また文化的な違いからかディスカッションの幅が広いように感じます。日本で研究していたらあまり考えないようなアイデアに出くわします。そして、皆よく喋るので、それらを惜しげもなく発信してくれます。また、国際的に著名な先生方が多いため、人脈も世界的に広がっています。指導教官が詳しくない分野に対しては、その分野の専門家を紹介してもらい相談させてもらうことも何度かありました。上記点から、イギリスではより幅の広い研究ができているのかなと感じます。
一方で日本と同等のスピード感で研究が進められない点にもどかしさを感じます。特に、関係者のサポートが必要な場合(ディスカッション、試験機のトレーニングなど)、担当者が思うように動いてくれません。メールの返信がない、忙しいからとアポイントが1カ月先しかとれない、当日にアポイントがキャンセルされるなど、日本ではあまり考えられないことが起きます。こういった状況を考慮して計画的に研究を進めることが重要です。
留学を考えている人へ
短期、長期関わらず海外留学を悩んでいる方には、留学を進めたいと思います。勿論、日本でも質の高い研究をすることができます。その中でも海外で研究することで、私の場合、上述した通り「新しいアイデアの考え方」に関して学びが多かったです。また、研究といっても人とのコミュニケーションは非常に重要です。どう考えて行動するか、その際周りの人、特に文化の違う人に対してどのように働きかければ良いのかを試行錯誤し体得できる環境があります。また、世界中から意識の高い研究者が集まっているため多くの刺激が得られています。本人の目的意識によって、海外留学で得られる知識と経験は大きな財産に変化すると思います。留学を悩んでおられる方はトライしてみてはいかがでしょうか。
著者略歴
2012年3月 京都大学工学研究科 物質エネルギー化学専攻 修士課程修了
2012年4月 シェルルブリカンツジャパン株式会社入社 潤滑油の研究開発に従事
2018年4月 Tribology Group, Mechanical Engineering Department, Imperial College London 潤滑油添加剤の関する研究に従事